工房の前の通り。
近所に住んでるオバチャンが、
掃除しながら鼻歌をデカイ声で歌ってた。
よく漫画であるような、「ら〜ららー♪」とか「れれれのれ〜♪」みたいなの。
そこから少し離れて脇道の角には、
これまたおそらく近所のオッサンが、
誰かを待ってんだか、傘でゴルフスイング。
よくある、「イチ、ニー、サン」とか「チャー・シュー・メン」みたいなの。
で、そんなの大して気にもせずに軒先で煙草吸って一休み、俺。
オバチャンの方も、オッサンの方も見てるってよりも、
ボンヤリ周り全体を見てた。
俺から見て、
右には鼻歌交じりに掃除してるオバチャン。
左には傘でゴルフスイングの練習してるオッサン。
オバチャンは、オッサンに背を向けて掃除、
オッサンは、体だけオバチャンの方を向いて、顔は下でスイング。
その距離、10メートル程度。
台風の影響か、風が強くて互いに意識し合って無い。
「らら〜ら〜、らっらぁ〜♪」
って、おそらく曲のサビあたりで、盛り上がったんだか、
ビブラートかけながら、オバチャンがクルって回ったのと、ほぼ同時。
「チャー・シュー・メーン!!」
って、おそらくティーショットな具合に、
フルスイングで、オッサンが傘を振って顔が上がった。
で、その瞬間。
二人の目が合って、二人が「ピタッ」て止まった。
時間にして、2〜3秒。
そこから新しい恋が始まった!!
って、わけも無く。
気まずそうな表情でお互い、すごすごと向きを変える。
で、そん時にどうしたかって、俺?
「ピタッ」と二人が止まってから、動き出す瞬間に、
「そして、時は動きだす」
とか小声で呟いてたぜ。
そんだけの話。