性善説・性悪説という話を耳にしたことが一度はあるだろう。
前者は、善への兆しが先天的に備わっているが、悪が外在すると考えた説で、
後者は、本能的な欲望は後天的な努力により善に転じさせれるとする説だが、
要約すれば、悪が外に在るか内に在るかの違いだとも言える。
どちらの説が正しいとするかは個人の判断にお任せするが、
外的要因、すなわち環境が大きく善悪に作用するというのは間違いないだろう。
善悪の基準は人が勝手に定めたものでしかなく、時代や場所によって様々だが、
人類が限られた土地で共存する為に本能的に導き出すのが公共善ならば、
人が多く密集する都市にこそ善が蔓延する筈なのに、現実は真逆だ。
その昔、「明日が見えない灰色の街」と松田優作は歌ったが、
個人主張の善が大量にぶつかり合うと、白でも黒でもない灰色が生まれ、
その見通しの悪さの中では、確かに明日は見えそうにもない。
警察官が2人現れると、先ず俺に「電話したのは、おニイさんですか?」と聞く。
「ハイハイそーです」と答えていると、オッサンがイキリながら口を挟んでくる。
オッサン「ソイツがっ!そのヤローが通行の邪魔してやがって!!」
前のめり気味にオッサンはカットインしてくるが、警察官がいるせいか、
先程までの怒り狂った様子よりも控え目で、警察官の心象を気にしてる感じだ。
どうしたんだ?アレだけ威勢良くきてたのに、オラオラ系は卒業したのか?
それとも、え〜っとなんだっけ?カメハメ何とかじゃなくて、
「界王拳4倍だぁーっ!!」だっけ?アレのヤりすぎか?
仙豆食べないと、「元気がなくなってきたぞ、オラッ」とかそんなんか?
警察官が「まぁまぁ」ってな具合にオッサンを抑え続けてて、
難癖つけてきた経緯を俺に聞いてきたんだが、オッサンは勝手に語りだす。
オッサン「このヤローが生意気な態度で馬鹿にしやがって……」
俺「このオッサン、ドーテーなんスよ。それで、こじらせちゃってるみたいで」
オッサン「誰が童貞だ!!コノヤローッ!!」
俺「あー、違った。インポテンツで悩んでたんだ!!」
警察官「まぁまぁ、おニイさん。それぐらいで……」
オッサン「コイツ、ずっとこんな事、言いやがって……」
俺「えっ!?アレか?カミさんがヤらせてくれないから苛ついてんだっけ?」
警察官「いやいや、おニイさん。もう止めとこう、ねっ」
俺「いやぁ〜。散々悩み聞いて愛でてやってんのに怒り狂っちゃってねぇ」
警察官「はい。もうね、ちょっと別々に経緯を聞こうか」
警察官2人がオッサンと俺の間に入り、距離を空けると、手順通りの質問開始。
淡々と経緯を話して、警察に電話するまでをさっさと説明したが、
オッサンの側はからかわれてまたもや界王拳だかスーパーサイヤ人だか知らんが、
怒りが込み上げてきちゃったらしく、俺を罵倒する言葉を吐き続ける。
だから、クリリン殺したの俺じゃないって。
チャオズは自爆したけど、ただの犬死にでしかないって。
オッサンの支離滅裂気味な言葉に警察官も呆れたのか、
経緯を聞くんでは無く、何で文句を言おうと思ったのかを聞き始めた。
オッサン「だって、アノヤローが、あんな邪魔になる場所に……」
警察官「うーん。でもあの場所は人は通らないでしょう。ねぇ?」
オッサン「でも、交差点の角は駐車禁止だから、あんな……」
警察官「道路上じゃないし、バイクから離れてないから駐車にならないんだよね」
オッサン「…………………いや……でも………」
駄目だ。完全にオッサンの戦闘力が下がりきってる。
このままだと、警察官に注意されて大人しく帰っちまいそうだ。
「みんな!!オッサンに元気をわけてくれ!たのむ!!」
とは、別に思わないが、もう少しだけイジってみたくなったので、
オッサンを愛でる激励の言葉の一つでも飛ばしてみた、俺。
俺「オッサン、勘違いしたからってクヨクヨすんな!!」
目線を警察官から逸らし、オッサンが俺を睨み付ける。
俺「土下座でもすれば、カミさんもヤらせてくれる!ソレとも童貞だっけか?」
オッサンがもう一度元気を取り戻し、顔を赤くしながら何事か喚くと、
怒り狂って警察官を押し退けて俺に向かってくる。
が、もう一人の警察官に抑えられて敢えなく停止。
やっぱり童貞が図星だったんだろう。魔法使えば良いのに。
警察官が「手出ししたら逮捕になっちゃうよ」的な事を言うと、
オッサンは怒りながらも負け惜しみの如くアホな事を口走りだした。
オッサン「……テメぇには手出ししねぇから、バイク壊させろや!!」
俺「はっ!?何で?バイク相手にドーテー卒業ッスか?変わった性癖だな」
オッサン「ウルセェ!!金払ってやっから壊させろや、オラッ!!」
俺「マジでっ!!金払ってくれんの?そんなら好きなだけヤっちゃって!!」
オッサンが一瞬、自分が言い出したくせに「えっ!?」みたいになって、
止めようとしてた警察官までが「えっ!?」ってなってた。
が、しかし、俺は止まらない。
俺「新車買って欲しいからさぁ〜。では、ハリキって!どうぞ〜!!」
流石にオッサンも蹴りの一つでも入れて来るだろうと思った。
そしたらトコトン追い込んで新車買わせようと思ってた、俺。
警察官もマズイと感じたのかオッサンを抑えようと身構えた。
次の瞬間。
オッサンはくるりと踵を返し、ヨドバシカメラの方へ走って逃げ出した…………。
最後にまた一発追い込んで、辛い思い出でも背負わせてやろうと思ったが、
警察官に追い掛けられて、逃げ去ったオッサンの後ろ姿には、
もう声も届かない……………。
童貞をこじらせたのか、ソレとも明日の見えない灰色の街が悪いのか、
オッサンを愛でる仮初めの時はこうして終りを告げた。
後に残ったのは、騒ぎを野次馬の外から寂しく見てた待ち合わせ相手と、
オッサンからかい過ぎて疲れた俺だけだ。
グレイの街にいつか染まってしまい
偽りの愛バラまく事になれすぎて
後ろ姿をなじる事さえできやしない ネェ FUNNY BOY
ONE NIGHT 又一発だけ MEMORY
やるつもりでも NO!
BYE BYE FUNNY BOY さみしいくらい
BYE BYE FUNNY BOY つかれちまう
終わり